みんなでつくろう!!千葉九条の会
 

高田健氏の講演(2006年10月9日)

現在の局面と全国「九条の会」の運動の現状

高 田  健(「九条の会」事務局)

北朝鮮の核実験−東北アジアの非核化にはたす「九条の会の役割」はいっそう重要に

 電車で北朝鮮の核実験のニュースを怒りを覚えつつ聞きました。この事態は東北アジアに緊張がいっそう増大するな…と、九条の会の重要さ痛感しつつこの会場にやってきました。核拡散の進む状況、東北アジアにおいて核を含む軍事的緊張が激化する状況、これに対し九条の会は東北アジアの平和を実現してゆく、日本が緊張激化に荷担しない国としてやってゆくためにますます大変重要な役割を担うことになってきました。
 2005年6月の6ヵ国会議共同宣言では、「朝鮮半島のすべての核兵器、すべての核開発計画を放棄する」という確認を明確にしています。北朝鮮は勿論、日本も米国もこれを果たす重大な責任があると思います。残念ながらこの間この宣言が十分に守られていませんし、北朝鮮は今回これを大きく破る行動に出ました。私たちとしては改めてもう一回この6者協議の再開とこの宣言にもとづいて朝鮮半島だけでなく、日本をふくむ北東アジアの非核化をめざして運動していかなければならないだろうと思います。各国は皆ダブルスタンダードで口では言っても実行しません。私たちや各国の民衆運動がますます大事になっています。

安倍政権−戦後史上最も右翼的で危険な内閣

 この北東アジアの激動の時、安倍さんが中国に行き、今は韓国に行っています。安倍さんが総裁選で言っていたことはいま微妙に変わって来ています。変わらねば情勢にあわない。小泉政権でアジア外交をめちゃくちゃにしてしまった5年間をなんとか新内閣の誕生という絶好の機会を捉えて、中国・韓国に行ってもらいたいという政財界の要求や日本の様々な人々の要求がありますから、安倍さんもこれを無視できません。だから従来の自分の主張を多少ねじ曲げても訪韓・訪中を実現したわけです。
 しかし安部内閣は非常に危険な内閣です。結論的にいうなら安倍さんの新内閣は新国家主義です。アメリカのブッシュさんの背後にいるのがネオコンですが、この勢力はブッシュとともにアメリカで支持を失っています。ヨーロッパではどんどん影響力が後退しています。世界、特に中南米など全世界的にはこのネオコンのような戦争で事を解決しようという勢力は影響を低下させています。日本は反対に新たなネオコン内閣が出現しました。冗談ではありません。我々は大変なところに来ています。

 新内閣は閣僚18人のうち、公明党と民間出身の2人を除く16人のうち、日本会議に所属する大臣が11人います。日本会議というのは自民の右派などと言うのではなく極右の組織です。黒い街宣車で駆け回っているのと同じレベルの国会議員です。官房長官が日本会議ですし、首相お抱えの補佐官が国会議員は皆日本会議です。内閣はネオコンのような日本会議という右翼に乗っ取られ、全世界の流れと逆行する国家主義者が内閣を作るところに来たと言うことは大変なことだろうと思います。私たちはこれを甘く見てはいけない。覚悟が必要な時期に来たと見なければなりません。

解釈改憲で集団的自衛権を行使できる国にしようとしている内閣

 『美しい国へ』という本を安倍さんは出しました。誰かが中国ではアメリカを「美国」と書くと言っていました。だから「美(しい)国へ」とは「アメリカへ」ということであると言われ、なるほどと思いました。あの本の一部ではアメリカとの同盟を強めて、これからの世界に対応していくと言っている。とりわけ非常に重要な問題は、安部内閣は集団的自衛権の行使、これに公然と踏み込むことを宣言した内閣です。日本以外の地域でアメリカと一緒に闘うというのが集団的自衛権ですから、日本は9条がありながら、その道に踏み出したい。しかもそれが憲法違反ではないと言いたいのが今度の内閣です。16人中11人日本会議がいるという内閣はそういう内閣なんです。全国の九条の会はいっそう緊張した情勢を迎えているのだと思います。現実に歴代自民党内閣は集団的自衛権はいかなる意味においても憲法違反だから行使できないと、あの小泉さんまで言っていました。
 安倍さんは全面的とは言わないまでもこれをやろうとしているわけです。たとえば安倍さんは公海上で日本と米国の軍艦が公海上で一緒に進んでゆくとき、敵に攻撃されたらアメリカは戦って、日本の自衛艦は戦えない。こんなおかしいことはないという例を出しています。「公海」で日本の自衛艦と米軍艦が一緒に平和的に航行するというメルヘンのようなことは現実にはあり得ません。ありもしないことをいかにもあるかのように言って集団的自衛権を行使しようとする。周辺事態法でも日米軍が共同で闘うことは出来ませんが、これからは周辺事態を用いるかもしれません。シーレーンを攻撃されたら日米で戦いたいと言うでしょう。シーレーンは海の上に線が引いてあるわけではありませんから、中東から日本までの広い範囲で共同して戦うということになったらこの国はどういうことになるのでしょうか。政府の解釈で集団的自衛権行使に踏み込む。それが無理ならたぶん「国家安全保障基本法」などというのを作るかも知れません。

九条の会の運動が小泉内閣の「戦争できる国」の実現を阻止してきた

 これらを草の根の運動で一緒に学習し、周辺事態で、台湾海峡やシーレーンで日本とアメリカが戦争をする国になっていいのですか、憲法を変えなくてもそれができると安倍さんは言っているよ、それでいいのですか、私たちは許せないよ…という運動を九条を守る運動はやっていかなければならないのだと思います。安倍さんは集団的自衛権行使を可能にする勉強会を作ると言いますが、私は感じたことがあります。小泉さんがやれなかったのになぜ安倍さんはやるのかと。小泉さんがやれなかったのは九条の会などの前進があったからだと私は思っています。九条の会などの大きな運動が、政府の意図を阻止してきたと思うのです。
 2000年にアーミテージ報告が出されました。その後アーミテージはショー・ザ・フラッグと言ってアフガニスタンの「対テロ戦争」に日本が参加することを要求しました。イラク戦争ではブーツ・オン・ザ・グラウンドと言って自衛隊を戦場に出せと要求してきました。これを日本に一歩一歩受け入れさせながら、アメリカは日本が憲法を変える変えないはともかく一刻も早く集団的自衛権を行使できるようにしろと言っているのです。
 小泉内閣はこのために憲法9条を変えようとしてきた。憲法調査会を作ったり、憲法改正手続き法など、何とかして憲法9条を変えようとしてきました。中曽根さんは数年前、あと5年で憲法改正は終わっていると宣言していました。安倍さんも5年といっている。政治家の言う「5年」は眉唾です。1〜2年…その次はかなり先と言うとき5年というのですね。中曽根さんは5年後には明文改憲をしておく、集団的自衛権行使できるようにしたかった。しかしながら今日この時点になってもできません。
 今、安倍さんの立場に立って考えても、9条を変えられるでしょうか。どんな手を使えば変えられるでしょうか。すぎには変えられません。これだけ9条の会があるのです。憲法は変える方が良いという声は多くても9条は変えない方が良いという声は5〜60%あるのです。いくら知恵を絞っても今憲法九条を変えることはできないと思います。憲法調査特別委員会の中山委員長達がヨーロッパに行ったときに、外国の人と話をしている中で「実は日本には憲法9条の会というのがあって、これが今乗っているんだ」と愚痴をこぼしたそうです。彼らは良く知っています。マスコミが報道しようとすまいと、九条の会が6月10日で5200近くなったこと、私の想定では現時点では6000近いでしょう。九条の会は停滞どころか発展しています。憲法9条の世論もそうです。アーミテ−ジであれ、ブッシュであれ、憲法9条を変えることにこだわっている限り集団的自衛権はすぐには行使できない。安倍さんが憲法を変えずに解釈で集団的自衛権を行使しようと言うのはそういうことです。私は第1ラウンドは勝利していると思っています。

「九条の会」は安部内閣の「解釈改憲で戦争のできる国」実現と対決へ

 だから今度はこれを安倍さんは小泉さんに反しても「解釈」で集団的自衛権を行使するのだと言っているのだと私は思っています。今まで私が自民党の中で一番右翼、改憲派のとんでもない奴だったと思っていたのが中曽根と同じ考えの山崎拓です。この山崎拓が安倍さんをして、「あんなことをしてしまったらこの国はめちゃくちゃになってしまう。今までの政府がみんな間違っていたことになるじゃないか。これは無茶だ」と言うんです。彼がハト派に見えるほどのことを安倍さんは主張しているんですね。安倍さんだって出来るならこんなことはしたくないのだと思う。粛々と憲法9条を変えて堂々と集団的自衛権を行使したいのですよね。それができない。非常に苦し紛れだと思います。しかし第1ラウンドは私たちが押しているからといって安心できない事態です。第2ラウンドはもう始まっていますから、集団的自衛権問題・北東アジア問題をめぐって、どうやっていくかという大きな問題に直面しているのです。安心はできません。もっと頑張らねばならないのですけれども、なせ彼らが集団的自衛権を行使するというところに今踏み込んでいるかという背景については、私たちはただ大変だと考える必要はないのではないか。この中にわたし達のこの間の運動と安倍内閣のような内閣ができたというころに私たちのこれからの活動が突破してゆくヒントが隠れていると私は思うんです。

秋の国会は民主主義を破壊する悪法が目白押し

 165国会が始まっていますが、大変な法律がいっぱい出ています。12月15日迄の短い会期に5つの重要法案を通すことを自公で確認しています。
1.教基法改悪 安倍さんが「美しい国へ」で一生懸命いっていることで、何としても通したい。
2.自衛隊法改悪 一つは防衛庁を防衛省にする。防衛大臣になったら非常な権限を持つ。 二つが自衛隊の本務が今は国防ですが、加えて国際協力活動を本務とする。国を守るだけでなく国と世界で活躍する。
3.憲法改正のための手続き法案。今まで私たちは国民投票法案といていましたが、今の名称は改憲手続き法案。
4.自衛隊はサマワから帰ってきたというが、空自はイラクで活動しています。アフガニ スタンでもテロ特措法によりインド洋で海上自衛隊が活動しています。11月1日に期 限切れになるのでこれの延長をやる。
5.北海道を特別区にして、これをかわぎりに始める道州制の導入。

 この5つの法案を今国会で通すと言っています。これを労組や各組織が阻止する運動をやろうとしている。共謀罪もあるがなぜか5つの法案に入れていないのですが油断はできません。

大衆運動に新境地を切り開く全国の「九条の会」

 これらを国会で闘ってゆくわけですが、九条の会は何でもかんでもやるわけではありません。基本は9条改悪反対、守る、活かす、と表現は色々ありますが、「9条アピール」を軸に、一緒にやってゆく。今述べた5つの課題には賛成、良く解らない、反対もいるかも知れませんが、それは9条の会としてはかまわないのですが、市民運動としてこれらの課題にそれぞれが関わって良いわけですし、今日の私の発言も九条の会全体をを代表して話しているわけではありません。
 九条の会は2004年6月に出来て今回6月10日に全国交流会をやりました。「6.10報告集」はとても評判が良く、全国の皆さんを励ましています。来年も夏か秋頃交流会をやる予定です。
 この6.10集会の時点で6人の呼びかけ人が昼休み中に討議して4つのアピールを出しました。すでにご承知でしょうが、

1.世論の過半数を結集するような、広範な人々の参加する九条の会をもっと作ろう。

2.いろんな人と話し合えるように大小無数の学習会を開こう。九条の会としては憲法9条セミナーを開催する。

3.マスコミや地域の有力者に働きかけ地域に密着した草の根の会を沢山作ろう。

4.市区町村だけでなく丁目別まで、学校区や職場・学園に沢山作ろう。

この成果を持ち寄って来年第2回の交流会をやろう。

 この4つのアピールを元に各地で運動が始まっています。先日川崎の交流会に行ったら、市区町村だけでは弱いから集合住宅単位に作ろうと言っていました。全国的に県、市区町村の会もあります。これらのネットワークの会もある。今日の千葉の会もその関係を考える会のようです。
 基本的なことは地域の範囲・会の大小などにかかわらず、どんな会でも労組のような上下関係はないということです。お互いに対等・平等で話し合いながら運営しています。必要とされているものを作ればいい。形にとらわれないことです。丁目などまで無数に出来ていったら、そのときは県段階の会が必要だね…となってくる。ピラミッド型に作って、こうしないと格好が付かないからとか、作ったら毎月一回代表が集まろうとか、それだと大変だから常任執行委員会を作って、そこの決定を上から流すという形の話になって行くとうまくいかないというのが各地の運動から出てきた経験です。私はこれを個人的に「同円多心」のネットワークといっています。同心円的に広がるのは九条の会の趣旨ではありません。円の中にセンター=「心」がいくつもある。ひとりの場合もああある、サークルの場合もあるというように同円多心のネットワークが全国各地に出来てゆくべきだと思います。

憲法施行60周年に向けていっそう盛り上がる全国の「九条の会」の取り組みと会のあり方

 今年の11月3日は今までと違うように思います。大阪・兵庫・広島は1万人集会を計画しています。去年はこんな規模はありませんでした。安倍さんが出てくる危機的情勢や九条の会が増えていることが力になり、しかも計画倒れにならずに、可能性が出てきているところがすごい。こうした流れが全国に今広がっています。3日の前後に何百という各種集会が計画されているのが昨年と違うところです。これを来年の5月3日(憲法施行60周年)につなげて、人間で言えば還暦を契機にもう一回憲法というものを考える、あるいは戦後60年を考えてみよう。地域で5人でも10人でもいいからこの半年の中で考えて、さらに地べたに密着した、新しい九条の会を作っていこう。そういう風になって行けばもう一度大きな反撃が始まるとおもいます。私は楽しみにしています。広島などの取り組みに学びながらこの半年間やれれば、冒頭言った暗い話、北の核実験とか、中・韓国へ行ったが安倍さんは靖国の反省していないとか、ごまかして新国家主義に持っていこうとしているとか、集団的自衛権を使ってこの国を戦争ができる国にしようとしているとか、こういう嫌な流れを逆転させてゆく運動が可能なのではないでしょうか。

前回総選挙以後、流れは変わっている−ここに確信を持って来年の交流会での再会を

 思い出してください。この前の総選挙のあと、多くの人は「なんだこの国は!」と思った。沢地さんは「この国から逃げ出したいと思った」と言っています。でも踏み止まって、その後も各地で講演しています。
 しかし1年経って私たちも変わってきている。大江さんとか加藤さんとかが九条の会は改憲の流れを阻止できるねと各地で言うようになってきています。この流れを今後作っていけると思っているんです。私たちの運動は一気に登り調子というわけには行かないでしょう。悪条件も生まれてきますが、この間各地で作られて来たような、2年前には千葉だってなかった集会が今出来るようになりました。この経験をふまえてしっかり足を地に付けてやっていけば相当大きな仕事が出来るのではないか、そんな気持で各地の集会に出させていただいていますが、本当に大きな力をいただいています。私は本当に励まされています。だから皆さんと一緒に、千葉も全国も大きな運動が出来て行ければいいと思います。
                                                                       終わり